『新しい学力』

◎開明的な考え方を持った福沢諭吉であるが、福沢自身が受けた教育はむしろ伝統的な教育であった。

◎いわゆる古典的名著は取り組むのに少々骨が折れる。その骨折りが思考の持久力を鍛える。栄養豊富だが、歯ごたえのある食物が古典的名著だ。それをしっかりと噛み続け、思考の体力をつけていく。これが粘り強い思考力を鍛える王道である。

◎教科書は冷凍食品のようなものである。解凍しなければ食べられない。これを解凍するのが教師や親の感動である。教科書は、本来「すごい!」知識だけで構成されている。ただそのすごさが伝わりづらい記述スタイルになっている。感動による解凍作業が必要なのだ。

◎身体の力は全ての学力の根底にあるものである。福沢諭吉は「まず獣身を成して、のちに人心を養う」というスローガンを教育の基本として掲げている。まずは獣のような健康な身体を作ることに専念する。思い切り遊び活動し、しっかりと食べて休養をとる。生き生きとした獣のような反応のいい身体を作ることが、何をおいても優先されるべきだという。そのような健全な身体性の上に立って、知力の養成や人としての心の養成があると、福沢は考えている。

『新しい学力』(齋藤孝・著、岩波新書)